ANAについて
日本の空といえば、ANAを思い浮かべる方が多いでしょう。あの青い機体と印象的なメロディーは、多くの人に親しまれています。しかし、ANAが実は航空会社以外にも様々な事業を手がけていることをご存知でしょうか。今回は、ANAグループの全体像について詳しくご紹介します。
企業理念とビジョン
ANAグループの経営理念は「安全と信頼をもとに、心の翼で世界に夢をかけるような未来に貢献する」です。
2025年の創立70周年に向けて、新しい経営ビジョン「A World Filled with Excitement(ワクワクに満ちた世界)」を掲げています。このビジョンは、従業員一人ひとりが理想とする未来について話し合って作られたもので、現場の想いが込められています。
行動指針は「Safe, Warm, Bright and Energetic!」です。ANAの客室乗務員の笑顔や空港スタッフの対応を思い浮かべると、まさにこの言葉通りだと感じられるでしょう。
事業の構造
多くの方はANAを航空会社として認識していますが、実際はより幅広い事業を展開しています。
航空事業:3つのブランド戦略
航空事業では、以下の3つのブランドを展開しています:
- ANA:フルサービス航空会社として高品質なサービスを提供
- Peach:格安航空会社として手頃な価格で利用できるサービス
- AirJapan:2023年度下期に就航した中距離国際線専門の航空会社
この3ブランド展開により、様々な価格帯とニーズに対応できる体制を整えています。
非航空事業の展開
ANAグループで特に注目すべきは、航空以外の事業です。7つの主要企業を通じて、以下の分野で事業を展開しています:
- 商社事業(ANAトレーディング)
- 不動産事業(ANAX)
- 物流事業(OCS)
- 小売事業(ANA商事)
- 施設管理(ANAファシリティーズ)
- IT・コンサルティング(ANAビジネスソリューションズ)
- ビル管理(ANAスカイビルサービス)
これらの事業は単独で運営されているのではなく、航空事業と連携して相乗効果を生み出しています。例えば、旅行で貯めたマイルを日常の買い物で使用できるシステムなどがその例です。
中期経営戦略(2023-2025年)
ANAグループは2023年に、新型コロナウイルスからの回復を目指す中期経営戦略を発表しました。
業績回復の目標
- 2023年度:営業利益1,200億円、純利益630億円
- 2025年度:営業利益2,000億円、純利益1,220億円
芝田浩二社長は「2025年度の目標は、新型コロナ以前の規模にしっかりと戻すこと」と述べています。実際、これらの数字は2018年時点で2020年度に計画されていた数値と同じで、コロナ禍で失った5年間を取り戻すことを目指しています。
3つの戦略の柱
1. マルチブランド最適化と貨物事業拡大 3つの航空ブランドを市場の変化に応じて柔軟に運用し、国内線では安定した需要を確保しつつ、国際線では段階的な回復を図ります。
2. 非航空収益領域の拡大 2025年度までに、7つの主要企業から売上4,000億円、営業利益240億円の達成を目指します。航空事業の変動に左右されない安定した収益基盤の構築が目標です。
3. ANA経済圏の拡大 年間約400億円の効果を生み出し、約2,000億円規模の経済圏の構築を目指します。
ANA経済圏とは
ANA経済圏とは、ANAのマイレージクラブを中心とした大規模なサービス体系のことです。
主なサービスには以下があります:
- ANAマイレージクラブアプリ
- 新ANA Pay
- ANAモール
将来的にはメタバースまで展開する予定で、航空サービスから日常の買い物、旅行予約まで、ANAのサービス内で完結できる環境の構築を目指しています。
利用者は飛行機でマイルを貯め、買い物でそのマイルを使用し、さらにマイルを獲得して次の旅行に活用する、といった循環的な利用が可能になります。
現在の課題と取り組み
国際線の回復
国際線の中でも、特に日本人の海外旅行需要の回復が遅れています。円安の影響もあり、海外旅行への関心が低下している状況です。一方で、外国人観光客の需要は順調に回復しており、このインバウンド需要をいかに取り込むかが重要な課題となっています。
人材育成とデジタル化
航空業界は人材に支えられている業界です。ANAグループでは「人的資本」を経営の基盤として位置づけ、従業員の成長と働きやすさの向上に取り組んでいます。
同時に、デジタル変革(DX)も推進しており、以下の目標を掲げています:
- デジタル人材を2022年度比で1.6倍に増加
- IT投資を2020-2022年比で1.5倍に拡大(2023-2025年)
環境への配慮
航空業界は環境負荷の観点で注目されることが多いですが、ANAグループも積極的に環境に配慮した取り組みを行っています。持続可能な航空燃料(SAF)の調達などを進めており、これは社会的責任だけでなく、将来の環境規制強化を見据えた戦略的な取り組みでもあります。
まとめ
ANAグループは現在、大きな変革期を迎えています。新型コロナの影響で大きな打撃を受けた航空事業の回復を図りながら、同時に航空を超えた総合サービス企業への転換を目指しています。
新しい経営ビジョン「A World Filled with Excitement」は、単なるスローガンではなく、航空サービスを起点として人々の日常生活に「ワクワク」を提供したいという真摯な想いを表現しています。
3つの戦略(マルチブランド最適化、非航空事業拡大、ANA経済圏開発)が成功すれば、日本の航空業界における新しいビジネスモデルの事例となる可能性があります。
しかし、国際線の回復、人材確保、環境問題など、解決すべき課題も多く残されています。2025年度の目標達成と、その後の2030年に向けた成長軌道への移行が、ANAグループの今後を左右する重要なポイントとなるでしょう。
利用者の立場からは、より便利で楽しいサービスが提供されることが期待でき、ANAグループの挑戦を応援したくなる取り組みだと言えるでしょう。
※本記事は企業分析を目的としており、投資の推奨や勧誘を意図したものではありません。投資に関する判断は、ご自身の責任で行ってください。