映画を観終えたあと、しばらく立ち上がれなかった話『THE FIRST SLAM DUNK』レビュー

結論

『THE FIRST SLAM DUNK』は、原作既読者にも未読者にも刺さる映画だった。試合の緊張感と、湘北の5人それぞれが抱えてきたものが、90分に凝縮されている。バスケを知らなくても観られる。でも観たあと、バスケを好きになる。

エンドロールが終わっても、席から立てなかった

映画館の照明がついたのに、しばらく動けなかった。

こういう経験、久しぶりだった。スポーツ漫画の映画化はこれまでいくつも観てきたけど、ここまで「余韻で動けない」ことはそうそうない。

ぼくが『THE FIRST SLAM DUNK』を観たのは2023年1月。封切りから約1ヶ月後、平日の昼間に滑り込んだ回だった。それでも客席はかなり埋まっていて、エンドロールが終わっても数人がそのまま座っていた。

この映画、なぜそこまで人を動けなくするのか。観終えてから何度も考えている。


作品概要。山王工業戦、90分に凝縮された原作の核

『THE FIRST SLAM DUNK』は、井上雄彦氏が原作・脚本・監督を務めたアニメ映画で、2022年12月3日に公開された(出典: 東映アニメーション公式)。

原作漫画『SLAM DUNK』は1990年から1996年にかけて週刊少年ジャンプで連載され、単行本全31巻の累計発行部数は2023年時点で1億7000万部を超える(出典: 集英社公式)。

映画の舞台となるのは、原作クライマックスの「山王工業戦」。全国大会で優勝候補筆頭の山王工業に、無名校・湘北高校バスケ部が挑む試合をほぼ丸ごと映像化した構成だ。

補足

原作未読でも問題なく観られる作りになっています。試合の流れに沿って、各キャラクターの背景が自然に差し込まれるので、「誰がどんな人物か」を事前に知らなくてもついていけます。ただ、原作既読者には刺さる演出が多数あります。

注目ポイントはもうひとつ。メインキャラクター5人の声優が全員変更されていること。旧テレビアニメ版(1993年〜1996年放送)と比べ、賛否が出た部分でもある。ただぼくの印象は、「これはこれで正解だった」というものだった。理由は後述する。


良かった点。映像の密度と、宮城リョータという選択

この映画で最も驚いたのは、映像表現の進化だ。

3DCGと手描きのハイブリッド方式を採用しており、試合シーンの動きの情報量が圧倒的に多い。バスケのプレーは当然スピードが命だけど、スローモーションと高速カットの切り替えが巧みで、観ていて「試合を生で観ている」に近い感覚がある。

公開前、3DCGに拒否反応を示す声も多かった。ぼくも正直、予告編を観た段階では半信半疑だった。でも本編を観ると、その疑念は早々に消えた。CGの滑らかさが試合の「リアルな速度」を担保していて、手描きではおそらく表現しきれなかった部分を補っている。

もうひとつ、構成の話をしたい。

この映画はリョータ(宮城リョータ)視点で進む。原作でどちらかといえば脇を固めるキャラクターだったリョータに、映画は新しい背景を与えた。兄との関係、家族の喪失、その重さを抱えたまま全国の舞台に立つまで、こういう要素が試合の合間に挟まる構成になっている。

この選択が巧みだった。

リョータはポイントガード、つまりコートの司令塔。映画の語り手として選ぶなら、試合全体が見渡せる視点を持つこのキャラクターが適切だし、原作で掘り下げが少なかった分、映画で肉付けする余地もあった。観終えたあと「リョータのことが好きになった」という感想が多いのは当然だと思う。

声優交代については、最終的に「いい選択だった」とぼくは感じている。テレビ版のキャストへの親しみは根強いけれど、新しい声で「新しい映画として観た」という体験が成立した。旧アニメの続編ではなく、原作者自身が作り直した映画、という立場が声にも表れていた。


気になった点。原作未読者への情報圧と、一部のテンポ

ただ、気になる部分もいくつかある。

注意

以下はネタバレを極力避けた範囲でのコメントです。具体的な試合の結末・得点経過には触れません。

まず、試合序盤の情報量の多さ。原作を知っていればキャラクターの関係性はすんなり入ってくるけど、まったくの初見だと「この人誰だっけ」が重なる場面がある。

映画は原作未読者を置き去りにしない作りを一応意識しているが、それでも5人全員の背景をフォローしながら試合を追うのは、90分という尺では少し詰め込み気味に感じた。特に試合前半、試合の流れを追いつつ回想が入るリズムは、人によっては「どっちに集中すればいいか」と感じるかもしれない。

もうひとつは、試合後半以降の展開に比べて中盤のテンポがやや落ちる部分があること。前半の追い上げと終盤の圧倒的な盛り上がりの間、少し息継ぎ感が長めな箇所がある。

ただ、これはトレードオフだ。あの中盤がなければ、終盤の重みも変わっていた。「問題」というより「作劇上の選択」として受け取っていて、致命的な欠点ではない。


こんな人におすすめ

この映画が刺さりやすい人

  • スポーツ漫画が好きで、「試合描写」に強い映画を探している人
  • 原作『SLAM DUNK』を読んでいたが、アニメ映画化には懐疑的だった人(一度観てほしい)
  • 家族や兄弟との関係、喪失をテーマにした話が好きな人
  • 3DCGアニメの進化に興味がある人

逆に、「旧テレビアニメの雰囲気をそのまま味わいたい」という期待で観に行くと、少しズレを感じるかもしれない。音楽も、旧アニメで馴染みのあった曲は使われていない。

でもそれは、この映画が「新しいSLAM DUNKの体験」として作られたからだ。懐古的なノスタルジーより、「いまこの瞬間に観る映画」として設計されている。そのスタンスは一貫していて、ぼくはそこを評価している。


※本記事は2026-06-11時点の情報に基づきます。価格・配信状況・上映情報は変更されることがあります。


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まとめ

  • 試合の緊張感と登場人物の背景が90分に凝縮されていて、原作既読・未読どちらにも観る価値がある
  • 3DCGと手描きのハイブリッド映像は、バスケの速度と迫力を伝えるのに機能的に働いていた
  • 宮城リョータを語り手に据えた構成は、映画としての独立した強みになっている

観終えたあと、ぼくはもう一度同じ映画館に戻った。2回目でも動けなかった。それが答えだと思っている。


Photo by Patrick Schöpflin on Unsplash