老後の「受け取り方」で手取り額が大きく変わる
iDeCoは積み立てるときの節税効果がよく注目されますが、じつは受け取るときの選択ミスで大損するケースが後を絶ちません。
たとえば、同じ2,000万円を受け取るとしても、受け取り方によって税負担が数十万円〜数百万円単位でずれることがあります。老後の大切なお金ですから、出口戦略はしっかり理解しておきたいところです。
このページでは、iDeCoの受け取り方の種類・それぞれの税金の仕組み・組み合わせのポイントまで、順を追って丁寧に説明します。
iDeCoの受け取り方は3パターン
iDeCoで積み立てたお金(正式には「老齢給付金」といいます)は、原則として60歳以降に受け取れます。受け取り方は以下の3種類から選べます。
| 受け取り方 | 内容 | 税金の分類 |
|---|---|---|
| ①一時金(一括) | 全額または一部をまとめて受け取る | 退職所得として課税 |
| ②年金(分割) | 5年〜20年かけて少しずつ受け取る | 雑所得として課税 |
| ③一時金+年金の組み合わせ | 一部は一括、残りは分割で受け取る | それぞれの税制が適用 |
金融機関によっては②③が選べない場合もあるため、加入している機関に事前に確認しておくことが大切です。
①一時金で受け取る場合|退職所得控除が強力な武器になる
一時金(一括)で受け取る場合は、「退職所得」として扱われます。退職金と同じ区分です。
退職所得には「退職所得控除」という非常に大きな控除が用意されており、うまく使えば税負担をかなり抑えられます。
退職所得控除の計算方法
控除額は、iDeCoへの加入年数(掛金を払い込んだ年数)によって決まります。
| 加入年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 加入年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (加入年数 − 20年) |
たとえば、30年間iDeCoに加入していた場合の控除額は次のとおりです。
- 800万円 + 70万円 × (30年 − 20年)= 1,500万円
つまり、受け取る一時金が1,500万円以内であれば、課税される金額はゼロになります。
退職所得の課税のしくみ
退職所得控除を超えた部分についても、すぐに全額が課税されるわけではありません。次の計算式で「退職所得金額」を求め、それに税率をかけます。
- 退職所得金額 =(受取額 − 退職所得控除額)× 1/2
この「1/2課税」の仕組みがあるおかげで、控除額を超えても税負担は比較的軽く済みます。
注意点|会社の退職金と合算される
重要な落とし穴があります。会社の退職金も同じ「退職所得」として扱われるため、iDeCoの一時金と同じ年に受け取ると退職所得控除が合算されます。
退職所得控除は「勤続年数」か「iDeCo加入年数」のどちらか長い方を使うルールがあるため、両方の金額が大きい場合には一方の控除が無駄になってしまうことも。
受け取る年をずらす(5年超または19年超あける)ことで控除を二重に活用できるケースもあるため、会社の退職予定と合わせて計画的に動くことが重要です。
②年金(分割)で受け取る場合|公的年金控除が使えるが注意も必要
毎年少しずつ受け取る「年金形式」を選んだ場合は、「雑所得」として課税されます。国民年金・厚生年金と同じ扱いです。
公的年金等控除とは
雑所得には「公的年金等控除」が適用されます。受け取る合計額と年齢によって控除額が変わりますが、代表的な目安は以下のとおりです(65歳以上の場合)。
| 公的年金等の合計収入 | 控除額(65歳以上) |
|---|---|
| 110万円以下 | 全額控除(課税なし) |
| 110万円超〜330万円未満 | 収入 − 110万円 |
| 330万円以上〜410万円未満 | 収入 × 75% − 27.5万円 |
ポイントは、iDeCoの年金受取額だけでなく、国民年金・厚生年金と合算して計算するという点です。
たとえば、厚生年金を年間180万円受け取りながらiDeCoの年金も年間60万円受け取るとすると、合計240万円が雑所得の対象になります。控除額は130万円(240万円−110万円)となり、残りの110万円に所得税・住民税がかかります。
年金形式の落とし穴|社会保険料に影響する場合も
雑所得が増えると、収入が増えたとみなされ、国民健康保険料や介護保険料が上がるケースがあります。年金受取額の設定は、こうした社会保険料への影響も頭に入れておくと安心です。
③一時金+年金の組み合わせ|柔軟に活用できるが手間もある
「まとまったお金も欲しいけど、毎月の生活費にも充てたい」という方には、一時金と年金を組み合わせる方法が向いています。
たとえば、積み立て総額が1,500万円あった場合に、
- 500万円を一時金で受け取り(退職所得)
- 残り1,000万円を10年間の年金で受け取る(雑所得)
という使い方ができます。一時金部分で退職所得控除を活用しながら、年金部分は毎年の生活費に充てるというイメージです。
ただし、金融機関によって組み合わせの柔軟度が異なります。また、一時金と年金の割合を後から変更できないケースも多いため、申請前に十分シミュレーションすることが大切です。
どの受け取り方が「得」なのか?個人の状況で変わる
「結局どれが一番おトクなの?」と思いますよね。残念ながら、これは一概には言えません。なぜなら、次の要素によって最適解が変わるからです。
- iDeCoの積立総額(受け取り金額)
- 加入年数
- 会社の退職金の有無・金額・受け取り時期
- 公的年金(国民年金・厚生年金)の受給額
- 配偶者の収入や扶養の状況
- 60歳以降も働くかどうか
目安として覚えておきたい傾向
- 積立額が比較的少ない(〜500万円程度)かつ退職金が少ない方:一時金で受け取ると退職所得控除の範囲内に収まりやすく、税負担がゼロになるケースが多い
- 積立額が大きい・退職金も多い方:受け取り年をずらす工夫や年金形式の組み合わせで税負担を分散させると有利になりやすい
- 公的年金が少ない方(自営業者など):年金形式でiDeCoを受け取っても合計収入が低めに抑えられるため、雑所得の課税が少なく済む場合がある
受け取り前にやっておきたい3つの準備
1. 退職金の受け取りスケジュールを確認する
会社からの退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取ると、退職所得控除の計算に影響します。5年以上・または19年以上ずらすことで控除が二重に使えるケースがあるため、退職時期を見据えた計画を立てましょう。
2. 公的年金の見込み額を「ねんきんネット」で確認する
日本年金機構の「ねんきんネット」では、将来の年金受給見込み額を確認できます。iDeCoの年金受取額と合計したときに控除内に収まるかどうかのシミュレーションに役立ちます。
3. ファイナンシャルプランナー(FP)に相談する
税金・社会保険料・退職金が絡み合う計算は複雑です。金額が大きくなるほど、専門家のシミュレーションを受ける価値は高まります。iDeCo・税金に詳しいFPや税理士への相談を検討してみてください。
よくある疑問|Q&A形式で整理
Q. 受け取り方は後から変更できますか?
原則として、一度選択した受け取り方を途中で変更することはできません。申請前に十分検討することが重要です。
Q. 受け取り開始を遅らせることはできますか?
はい。iDeCoは60歳から75歳の間で受け取り開始時期を自分で選べます(加入期間によって受け取り可能開始年齢が変わります)。受け取りを遅らせれば運用を続けられる一方、その間は掛金の拠出はできない点に注意が必要です。
Q. 受け取り時に確定申告は必要ですか?
一時金の場合は「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで源泉徴収で完結し、確定申告が不要になるケースが多いです。年金形式の場合は雑所得として総合課税の対象となるため、他の収入との合算で確定申告が必要になるケースがあります。受け取り時に加入している金融機関から案内が届くため、指示に従って手続きしましょう。
Q. 死亡した場合、残ったお金はどうなりますか?
iDeCoは相続財産ではなく「死亡一時金」として遺族に支払われます。受け取った遺族には「みなし相続財産」として相続税が課される場合があります。受取人の指定は加入時に行うため、定期的に見直しておくと安心です。
まとめ|出口を意識することが、iDeCoをフル活用するコツ
iDeCoは、掛金を拠出している間だけでなく、受け取るときにも賢く動けば大きなメリットがあります。逆に、受け取り方を深く考えずに決めてしまうと、せっかく積み上げてきた節税効果が薄れてしまうこともあります。
大切なのは、自分の退職金・公的年金・家族の状況を整理したうえで、どの受け取り方が手元に残るお金を最大化できるかをシミュレーションすることです。
受け取り開始の数年前から準備を始めると、選択肢が広がります。「まだ先の話」と思わず、早めに情報を集めて動き出すことが、老後のお金を守る一番の近道です。
Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash