「投資に興味はあるけど、タイミングを間違えたら損しそうで怖い」
そう思って、ずっと一歩が踏み出せない人は多い。実際、投資で失敗する人の多くが「高いときに買ってしまった」という経験を持っている。では、買うタイミングを気にしなくていい方法があったとしたら、どうだろう?
それがドルコスト平均法だ。難しい名前に見えるけれど、仕組みはとてもシンプル。この考え方を知るだけで、投資に対する不安がずいぶん軽くなる。
ドルコスト平均法とは何か、一言で言うと
ドルコスト平均法とは、「毎月一定の金額を、決まった日に買い続ける」という投資の方法だ。
たとえば、「毎月1日に1万円分の投資信託を買う」と決めたら、あとは機械的に続けるだけ。価格が上がっていようと、下がっていようと、とにかく同じ金額を買い続ける。それだけだ。
英語では「Dollar Cost Averaging(DCA)」と呼ばれ、世界中の投資家が使っている定番の手法でもある。積立投資と呼ばれることも多く、NISAやiDeCoで積立設定をした瞬間、実はすでにこの方法を使っていることになる。
「一定金額を買い続ける」と何が変わるのか
ここが一番大事なポイントなので、具体的な数字で見てみよう。
毎月1万円ずつ、ある投資信託を4ヶ月間買い続けたとする。価格が以下のように変動したとした場合、どうなるか。
| 月 | 価格(1口あたり) | 購入口数 | 購入金額 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 1,000円 | 10口 | 1万円 |
| 2月 | 500円 | 20口 | 1万円 |
| 3月 | 800円 | 12.5口 | 1万円 |
| 4月 | 1,000円 | 10口 | 1万円 |
合計で4万円を使い、52.5口を手に入れた。4月の価格(1,000円)で計算すると、手持ちの資産は52,500円になる。投じた金額は4万円なので、12,500円の利益が出ている。
ここで注目してほしいのは、2月に価格が大きく下がった月があることだ。普通、価格が下がると「やばい、損した」と感じる。でもドルコスト平均法では、価格が下がった月に多くの口数を買えている。2月は1万円で20口も買えた。これが後で大きく効いてくる。
仮に最初の1月に4万円一括で買っていたとしたら、40口しか手に入らず、4月時点の資産は4万円のまま。利益はゼロだ。毎月積み立てることで、価格の下落が「むしろ安く買えるチャンス」に変わるのだ。
なぜ「平均購入単価が下がる」のか
ドルコスト平均法の最大の特徴は、自然と平均購入単価が下がりやすくなることにある。
毎月一定金額を買うということは、価格が高いときは少ししか買えない、価格が安いときはたくさん買える、ということを意味する。これを繰り返すと、結果的に「高いときにまとめ買いする」という最悪のパターンを自動的に避けられる。
スーパーのセールに例えてみよう。いつも同じ予算でお米を買うとする。値段が高い週は少ししか買えないが、安い週はたくさん買える。これを続けていると、1kgあたりの平均購入金額は自然と下がっていく。投資でやっていることは、これとまったく同じだ。
「毎月決まった金額を買う」という一見地味なルールが、実はとても合理的な仕組みを作り出している。
ドルコスト平均法が特に向いているケース
相場のタイミングが読めない人(ほぼ全員)
「今が買いどきかどうか」を正確に判断できる人は、プロの投資家でもほとんどいない。市場の動きを予測するのは本当に難しく、有名なファンドマネージャーでも外すことがある。
ドルコスト平均法は、そもそも「タイミングを読む必要がない」設計になっている。毎月決まった日に自動で買うだけでいいから、「今買うべきか、もう少し待つべきか」という悩みから完全に解放される。
投資に使える時間がない人
毎日チャートを見て、ニュースをチェックして、売り買いのタイミングを考える……そんな時間が取れる人はなかなかいない。ドルコスト平均法は一度積立設定をしてしまえば、あとは自動で動いてくれる。忙しい会社員や子育て中の人でも、無理なく続けられる。
感情で動いてしまいやすい人
「株価が下がった、もう売ってしまおう」「みんなが買っているから自分も買わなきゃ」。こうした感情的な判断が、投資の失敗を引き起こすことはとても多い。
ドルコスト平均法は「毎月〇〇円買う」というルールに従うだけなので、感情が入り込む余地が少ない。むしろ、下がった月も「たくさん買えた!」とポジティブに捉えられるようになる。
少額から始めたい人
NISAやiDeCoを使えば、月100円から積立設定できる証券会社もある。「まとまった資金がないと投資できない」は昔の話で、今は数千円から始めることが十分に現実的だ。
ドルコスト平均法の弱点も知っておく
良いことばかり言っても信用できないので、正直にデメリットも伝えておく。
価格がずっと上がり続ける局面には弱い
もし最初に一括で全額買って、そのまま価格がずっと上がり続けたとしたら、一括購入の方が利益は大きくなる。ドルコスト平均法は毎月少しずつ買うので、後から買う分は高い価格で買うことになるからだ。
ただし、現実の市場は上がり続けることもなければ、下がり続けることもない。上下を繰り返しながら少しずつ成長していくのが一般的な姿だ。だからこそ、ドルコスト平均法は長期的に見て有効な手法とされている。
短期間では効果が出にくい
ドルコスト平均法の真価は、長期間(5年・10年・20年)続けることで発揮される。数ヶ月やってみただけでは、劇的な変化は感じにくい。即効性を求める人には物足りなく感じるかもしれない。
でも逆に言えば、焦る必要がないということでもある。毎月コツコツ続けることが、結果として大きな資産につながっていく。
投資先が大きく下落したまま回復しないリスク
ドルコスト平均法が機能するのは、長期的に見て投資先が成長することが前提だ。個別株など、価格がずっと低いままで回復しない資産に積み立てを続けても、損失が膨らむだけになってしまう。
だからこそ、ドルコスト平均法に向いている投資先は、全世界株式や米国株のインデックスファンド(市場全体に分散投資する商品)が一般的に選ばれる。特定の会社ではなく、世界や米国の経済全体に投資する形なので、一つの会社が倒れても影響が限定的だ。
実際にどうやって始めるか
理屈はわかった、でも具体的に何をすればいいの?という人のために、流れを整理しておく。
ステップ1:証券口座を開く
ドルコスト平均法で投資するには、証券口座が必要だ。楽天証券やSBI証券などのネット証券が手数料も低く、使いやすいためよく選ばれている。口座開設は無料で、スマホから申し込めば1〜2週間ほどで完了する。
ステップ2:NISAの積立設定をする
つみたて投資枠(旧つみたてNISA)を使うと、投資で得た利益に税金がかからない。年間120万円まで積み立てられる非常に有利な制度で、長期の積立投資との相性が抜群だ。まずはここから始めるのが王道だ。
ステップ3:投資信託を選ぶ
積立投資に向いている商品として、よく名前が挙がるのが以下のようなインデックスファンドだ。
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
- eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
どちらも信託報酬(商品を持ち続けるコスト)が非常に低く、積立投資向けの商品として広く使われている。「どっちがいいか迷う」という人は、全世界株式を選んでおけばまず間違いない。
ステップ4:月の積立金額を決めて設定する
無理のない金額でいい。最初は月5,000円でも1万円でも、続けられる金額から始めることが一番大事だ。生活費を圧迫するような金額を設定してしまうと、途中で解約したくなってしまう。
設定したら、あとは基本的に放置でOK。口座の残高が自動的に積み上がっていくのを、半年に一度くらい確認する程度で十分だ。
途中で相場が大きく下がったときどうするか
これはドルコスト平均法を続ける上で、多くの人がぶつかる最大の壁だ。
積み立てを始めて1年後、リーマンショックのような大暴落が起きたとする。自分の資産が画面の上でみるみる減っていく。「もう売ってしまいたい」という気持ちになるのは、ごく自然な感情だ。
でも、ここが一番の踏ん張りどころだ。
相場が下がっているということは、同じ金額でより多くの口数が買えるということだ。暴落の時期に積み立てを続けた人は、安い価格でたくさん仕込めた。その後に相場が回復したとき、資産の増え方が大きく変わってくる。
リーマンショック後に積み立てを続けた人と、怖くて売ってしまった人では、10年後の資産に大きな差がついたという実例は多い。
「下がったときこそ、安く買えているチャンス」。この感覚を持てるようになると、ドルコスト平均法は本当に強い武器になる。
長く続けることが、最大の戦略
投資の世界には「時間を味方につける」という言葉がある。ドルコスト平均法は、まさにこの考え方を体現した手法だ。
毎月3万円を20年間積み立てた場合、元本だけで720万円になる。仮に年平均5%の利回りで運用できたとすると、20年後の資産は約1,233万円になる計算だ(複利計算による)。元本から500万円以上が増えることになる。
これは特別なスキルがなくてもできる。必要なのは、毎月の積立設定を維持するという、ただそれだけだ。
「投資はセンスがある人だけのもの」と思っていたとしたら、それは違う。ドルコスト平均法は、知識も時間も少ない人ほど向いている方法だ。難しいことを考えなくていい分、心が穏やかに続けられる。
投資は特別な才能より、地道に続ける力の方がよほど大切だということを、この手法は教えてくれる。
Photo by Chelsey Marques on Unsplash