「今月も貯められなかった」を繰り返していませんか?
月末になるとお財布の中身を確認して、「あれ、全然残ってない……」とため息をついた経験はありませんか。毎月「余ったら貯めよう」と思っているのに、いざ月末になると不思議なほどお金が残っていない。これ、意志の弱さのせいではありません。そもそも「余ったら貯める」という仕組みが、人間の心理として続かないように設計されているのです。
お金は使える状態にあると、自然と使ってしまいます。ランチを少し豪華にしたり、セールで気になっていた服を買ったり、友人の誘いに乗ってしまったり。それ自体は悪いことではありません。でも「余ったら貯める」方式では、貯まる未来はなかなかやってこない。
そこで根本から仕組みを変えるのが「先取り貯金」です。給料が入ったら、使う前に貯金分を引き出す(または自動的に移す)方法で、シンプルに見えて効果は絶大。多くのファイナンシャルプランナーが口をそろえて「まず先取り貯金から始めなさい」と言うのには、ちゃんと理由があります。
先取り貯金がうまくいく理由
先取り貯金の本質は「使える金額を最初から減らしてしまうこと」です。人間は手元にあるお金を基準に生活水準を決める傾向があります。月収が25万円でも、最初から3万円を別口座に移して「今月は22万円しかない」という状態にしてしまえば、22万円の中でやりくりしようとします。これを行動経済学では「メンタル・アカウンティング(心の会計)」と呼びます。
逆に言えば、25万円が手元にある状態でいくら節約しようと心がけても、脳は「25万円ある」という前提で動いてしまう。セールを見ると「まあ少し余裕あるし」と思ってしまうのは、意志が弱いのではなく、そういう心理的なしくみが働いているからです。
先取り貯金は、その心理を逆手に取った方法です。「ないものはない」という状態を強制的に作り出すことで、自然と支出が抑えられます。節約を頑張る必要がないので、ストレスも少ない。これが先取り貯金が「続く」最大の理由です。
先取り貯金の3つの実践方法
先取り貯金といっても、方法はひとつではありません。自分の生活スタイルや性格に合った方法を選ぶことが、長続きのカギです。代表的な3つの方法を紹介します。
① 自動積立(銀行の定期積立サービスを使う)
最もシンプルで挫折しにくい方法が、銀行の「自動積立定期預金」を使うやり方です。給料日の翌日(または当日)に、あらかじめ設定した金額を自動的に別の口座へ移してくれます。
たとえば給料日が毎月25日なら、26日に自動的に3万円が積立口座へ移動する設定にしておく。あとは何もしなくていい。意識しなくても貯まっていくのが最大のメリットです。
ほとんどのメガバンク・地銀・ネット銀行でこのサービスは無料で使えます。ネット銀行(楽天銀行・住信SBIネット銀行など)は手続きがアプリで完結するので、特に始めやすいです。普段使いの口座と積立口座を別の銀行にするのがコツで、「なんとなくATMで引き出す」という誘惑を防げます。
② 財形貯蓄(会社の制度を使う)
会社員であれば、給与から天引きで積み立てる「財形貯蓄制度」が使えることがあります。給与振込の前に引かれるため、文字通り「もらった瞬間には手元にない」状態になります。先取り貯金の中でも最強クラスの仕組みといえます。
財形貯蓄には「一般財形」「財形住宅」「財形年金」の3種類があり、目的によって使い分けできます。会社が導入していれば、総務部や人事部に確認するだけで始められます。まだ使っていない人は、一度確認してみる価値があります。
③ 給料日に手動で移す
自動積立の設定が面倒、あるいはもう少し柔軟にやりたいという人には、給料が入ったその日に自分でネットバンキングを開いて別口座へ移す方法もあります。
自動化ほど強制力はありませんが、「給料日の朝に必ず移す」というルールを習慣にしてしまえば十分機能します。スマートフォンのカレンダーやリマインダーに「貯金を移す」とアラームを設定しておくと忘れにくいです。
この方法のメリットは、その月の状況に応じて金額を調整しやすい点。「今月は車検があるから少し減らす」「ボーナスが入ったから多めに移す」という融通が利きます。慣れてきたら自動積立に移行するのもよいでしょう。
いくら先取りすればいいの? 目安の考え方
「先取り貯金を始めたいけど、いくら積み立てればいいかわからない」という相談はよく受けます。正直に言うと、正解はその人の収入・支出・目標によって変わります。でも、まず目安として覚えておいてほしい数字があります。
それは手取り収入の10〜20%です。
たとえば手取り月収が25万円なら、月2万5000円〜5万円。最初はこの範囲で「無理なく続けられる金額」を探してみてください。「そんなに無理」という人は、5000円や1万円からスタートしても全然OK。大切なのは金額より「仕組みを作って続けること」です。
目標から逆算して金額を決める方法
もう少し具体的に考えたい人には、目標から逆算する方法がおすすめです。
たとえば「3年後に旅行用に50万円貯めたい」なら、50万円 ÷ 36ヶ月 ≒ 月約1万4000円。「5年で200万円の頭金を作りたい」なら、200万円 ÷ 60ヶ月 ≒ 月約3万3000円。こうして計算すると「月にいくら積み立てればいいか」が具体的に見えてきます。
目標がないと「なんとなく貯めている」状態になり、モチベーションが続きません。ざっくりでもいいので「何のために貯めるか」を決めておくと、積立を続ける原動力になります。
生活費の見直しが先か、先取り貯金が先か
よく「先に家計を見直してから先取り貯金を始めた方がいいですか?」と聞かれますが、答えは「先取り貯金から始めた方がいい」です。
家計の見直しは時間がかかるし、やり始めると「どこを削るか」の判断に疲れてしまいます。一方、先取り貯金は今日から始められて、始めた瞬間から貯金が動き出します。先に仕組みを作ってしまい、残りの生活費の中でやりくりする形に自然となっていく方が、はるかにスムーズに進みます。
先取り貯金を続けるための3つのコツ
仕組みを作っても、途中でやめてしまうケースもあります。長続きさせるためのポイントを3つ押さえておきましょう。
コツ① 積立口座は「見えにくい場所」に置く
積立口座は、普段使いのメインバンクとは別にすることを強くすすめます。同じ銀行のアプリで残高がすぐ見えると、「ちょっとだけ使ってもいいか」という気持ちになりやすいからです。
別の銀行に口座を作り、アプリも別にする。これだけで「なんとなく引き出す」という行動をかなり防げます。見えないものは使いにくい、これが人間の心理です。
コツ② 積立金額を最初から高く設定しすぎない
「よし、やるぞ!」と気合が入っている最初ほど、金額を高く設定しすぎる傾向があります。月収25万円で「月5万円積み立てる」と決めたとして、生活費が苦しくなって積立を取り崩してしまったら、元も子もありません。
最初は「これなら絶対に生活が苦しくならない」と思える金額からスタートすること。3ヶ月続いたら1000〜2000円増やす、また3ヶ月後にさらに増やす。この「少しずつ上げていく」方法の方が、長期的にはずっと多く貯まります。
コツ③ 貯金残高を定期的に確認する
貯まっていく様子が見えると、モチベーションが上がります。月に1回でいいので積立口座の残高を確認して、「先月より〇万円増えた」という実感を味わってください。これが次の月も続けようという原動力になります。
アプリでグラフが見られる銀行や家計簿アプリを使うと、視覚的に貯まっていく様子がわかって楽しくなります。お金を管理することが「楽しい」と感じ始めたら、しめたものです。
先取り貯金を発展させる:貯まってきたら次のステップ
先取り貯金で一定の貯蓄ができてきたら、次のステップも考え始めましょう。貯めたお金をただ銀行に置いておくだけではもったいない場面も出てきます。
緊急予備資金は「生活費の3〜6ヶ月分」を目安に
まず最初に目指したいのは、緊急予備資金の確保です。急な病気・失業・家電の故障など「予想外の出費」に備えるためのお金で、生活費の3〜6ヶ月分が一般的な目安とされています。月の生活費が15万円なら、45万〜90万円。この金額が普通預金に確保できたら、ひとつ安心できる段階です。
緊急予備資金ができたら、投資も視野に入れる
緊急予備資金が確保できて、さらに余裕が出てきたら、積立投資を検討してみてください。NISAのつみたて投資枠を使えば、毎月一定額を投資信託に積み立てながら、運用益が非課税になります。
先取り貯金の仕組みはそのまま応用できます。給料日に自動で証券口座へ移し、自動的に投資信託を買い付けるよう設定する。原理はまったく同じです。「銀行口座への先取り貯金」に慣れたら、その一部を「投資への先取り積立」にシフトさせていくイメージで考えると、スムーズに移行できます。
ただし、投資には元本割れのリスクがあります。緊急予備資金を確保した上で、余裕資金で始めることが大前提です。
よくある疑問に答えます
Q. 先取り貯金をしたら生活費が足りなくなるかも……
最初はそう感じることもあります。でも実は、多くの人が「先取り貯金をしたら、なんとなく足りた」と言います。人間は手元にあるお金の範囲内で生活しようとする力が働くからです。
もし本当に足りなくなったときは、積立金額を減らしてください。無理して続けるより、少額でも仕組みを維持する方が大切です。
Q. 積立口座のお金は絶対に使ってはいけないの?
そんなことはありません。予期しない大きな出費が来たとき(医療費・冠婚葬祭など)は、使っていいお金です。「使ってはいけない禁断の口座」と考えると、ストレスになってやめてしまいます。「まず使わない口座」くらいのスタンスで気楽に構えましょう。使ったら少しずつ戻せばいい。
Q. ボーナスはどう扱えばいい?
ボーナスも先取り貯金の考え方を応用できます。ボーナスが出たら、まず目標額を別口座へ移してから残りを自由に使う。「使い切ってから考える」ではなく「最初に確保してから使う」。この順番を変えるだけで、ボーナスが積み重なっていきます。
今日から動き始めるために
先取り貯金は難しい知識もいらないし、特別なツールも必要ありません。必要なのは「口座をひとつ作って、自動積立を設定する」という小さな行動だけです。
読んで「なるほどな」と思っていただけたなら、ぜひ今日のうちに一歩だけ動いてみてください。銀行のアプリを開いて積立設定の画面を開いてみる、それだけでもいい。お金の不安は、小さな行動の積み重ねでしか消えていきません。
「余ったら貯める」をやめて、「最初に貯める」という順番に変える。たったそれだけのことが、数年後の自分の選択肢を大きく広げてくれます。
Photo by Miles Burke on Unsplash