「老後のお金が2,000万円足りない」という話を聞いて、何かしなきゃとは思っているけど、何から手をつければいいか分からない。そんな人に、まず知ってほしい制度があります。
それがiDeCo(イデコ)、正式名称は「個人型確定拠出年金」です。名前だけ聞くと難しそうですが、仕組みを理解すると「これ、やらないほうが損かも」と感じる人は少なくありません。
ただし、iDeCoには明確なデメリットも存在します。「メリットしかない」と言いきるのは正直ではないので、良い面も悪い面も包み隠さずお伝えします。
iDeCoってそもそも何?
iDeCoは、国が「老後のために自分でお金を積み立てましょう」と用意した制度です。毎月一定額を積み立てて、それを運用しながら60歳以降に受け取る、いわば自分専用の年金です。
会社員なら国民年金と厚生年金を受け取れますが、それだけでは老後の生活費が不足するケースが多い。その「足りない分」を自分で準備するための仕組みがiDeCoです。
2022年の法改正以降、加入対象がかなり広がり、会社員・公務員・自営業者・専業主婦(夫)など、ほとんどの現役世代が加入できるようになりました。
積み立てられる金額には上限がある
iDeCoは毎月の掛け金に上限があります。職業や勤め先の年金制度によって異なりますが、主なケースをまとめると以下のとおりです。
- 自営業者・フリーランス:月6万8,000円まで
- 会社員(企業年金なし):月2万3,000円まで
- 会社員(企業型DCあり):月2万円まで(※条件による)
- 公務員:月1万2,000円まで
- 専業主婦(夫):月2万3,000円まで
月2万3,000円を上限として積み立てた場合、年間で27万6,000円。30歳から60歳まで30年続ければ、掛け金の合計だけで828万円になります。運用益が加われば、それ以上の資産になる可能性があります。
iDeCoの3つの大きなメリット
iDeCoが注目されている理由は、税制上の優遇が3段階にわたって用意されているからです。これは正直、他の金融商品ではなかなか受けられない待遇です。
メリット1:掛け金が全額「所得控除」になる
iDeCoに積み立てたお金は、その全額が所得控除の対象になります。所得控除とは、課税の対象となる収入を減らせる仕組みです。
具体的に数字で見てみましょう。年収500万円の会社員が、毎月2万3,000円(年間27万6,000円)をiDeCoに積み立てた場合、所得税と住民税を合わせて年間約5万5,200円の節税になります(所得税率10%・住民税率10%の場合)。
30年間続けると、節税額の合計は約166万円。これは「積み立てながら、国からお金が返ってくる」感覚に近く、iDeCoを始める大きな動機になります。
所得が高い人ほど税率も高くなるため、節税効果はさらに大きくなります。年収800万円の人なら、同じ掛け金でも年間8万円以上の節税になることがあります。
メリット2:運用中の利益に税金がかからない
通常、投資信託や株で利益が出ると、約20%の税金がかかります。100万円の利益が出ても、実際に手元に残るのは80万円です。
ところがiDeCoの口座内では、運用益に対して非課税です。利益がそのまま次の運用に回せるため、長期間になればなるほど「複利の効果」が大きく働きます。
同じ商品に同じ金額を投資していても、iDeCo口座で運用した場合と通常の口座で運用した場合では、20年・30年後の差がじわじわと開いていきます。
メリット3:受け取るときも控除が使える
60歳以降にiDeCoを受け取るとき、「退職所得控除」や「公的年金等控除」という控除が使えます。これにより、受け取るお金に対する税負担を大きく軽減できます。
一時金として一括で受け取る場合は退職所得控除が適用されます。たとえば、20年以上積み立てた場合の退職所得控除は「800万円+70万円×(積立年数−20年)」という計算になるため、積立期間が長いほど非課税枠も大きくなります。
受け取り方によって税負担が変わるので、受け取り時期が近づいたら専門家に相談するのが賢明です。
見落としてはいけないiDeCoのデメリット
「税制優遇が3段階もある」と聞けば、すぐにでも始めたくなるかもしれません。でも、iDeCoには無視できない制約やデメリットもあります。始めてから後悔しないよう、しっかり確認してください。
デメリット1:60歳まで引き出せない
iDeCoで積み立てたお金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。これが最大のデメリットと言っていいでしょう。
住宅を購入したい、子どもの教育費が必要になった、急に収入が減ったとしても、iDeCoのお金には手をつけられないのです。
「長期の老後資金」としては優秀な制度ですが、「いざというときの備え」には使えません。生活費の3〜6ヶ月分程度の緊急予備資金は、iDeCoとは別に現金で確保しておくことが大切です。
デメリット2:掛け金を止めても口座管理手数料がかかる
iDeCoには、毎月一定の手数料がかかります。金融機関によって差はありますが、国民年金基金連合会への手数料(月105円)や事務委託先金融機関への手数料などが発生します。
仮に収入が減って掛け金を最低額(5,000円)に変更したとしても、手数料は引き続きかかります。「掛け金をゼロにする」という選択はできず、積み立てを一時停止することも基本的にできません。
ただし、金融機関の中には口座管理手数料が無料のところもあります。どこでiDeCoを始めるかによってコストに差が出るので、金融機関選びは重要です。
デメリット3:元本割れのリスクがある
iDeCoで選べる商品には「元本確保型」と「元本変動型」があります。元本確保型は定期預金や保険商品で、リスクは低い代わりにリターンもほぼ期待できません。
一方、株式や債券の投資信託などの元本変動型は、運用によっては資産が増えますが、減るリスクもあります。特に積み立て開始直後に大きな下落があると、心理的なダメージは大きいです。
ただし、長期投資の観点からは、短期的な価格変動はそれほど気にしなくていいとも言われています。毎月一定額を積み立てる「ドルコスト平均法」により、価格が低いときに多くの口数を買える効果もあります。
デメリット4:転職・退職時の手続きが必要
転職や退職をした際、iDeCoの口座移管手続きが必要になります。これを忘れると、積み立て中断中も手数料だけが引かれ続けるという残念な状態になります。
転職が多いライフスタイルの人は、手続きを忘れないよう注意が必要です。会社員から独立してフリーランスになった場合も、加入区分や掛け金上限が変わるため、手続きが必要です。
iDeCoとNISA、どちらを優先すべき?
老後資金を準備する方法として、iDeCoと並んでよく名前が挙がるのがNISA(少額投資非課税制度)です。「どちらを先にやればいいか」という質問をよく受けるので、整理しておきます。
最も大きな違いは「いつでも引き出せるかどうか」です。NISAは好きなタイミングで売却・引き出しができますが、iDeCoは60歳まで手が届きません。
そのため、「老後専用の非課税積み立て」にはiDeCo、「老後以外にも使う可能性がある積み立て」にはNISA、という使い分けが現実的です。
また、iDeCoは掛け金が所得控除になるため、特に所得税率が高い人(年収が高い人)ほど節税メリットが大きく、iDeCoを優先する価値があります。一方で、所得が低くて税負担が小さい人や、まとまった資金が近い将来必要な人は、NISAのほうが使いやすいかもしれません。
余裕があれば両方を活用するのが理想ですが、どちらか一方から始めるなら、自分のライフプランに合わせて判断してください。
iDeCoを始めるときに選ぶ3つのこと
iDeCoを始めようと思ったら、決めることが3つあります。
1. 金融機関を選ぶ
iDeCoは銀行・証券会社・保険会社など、さまざまな金融機関で開設できます。ただし、選べる運用商品の数や手数料は金融機関によって大きく異なります。
口座管理手数料が無料かどうか、投資信託のラインナップが充実しているかどうかを確認してから選ぶのが基本です。インターネット証券は手数料が低く、商品ラインナップも豊富なことが多いため、初心者にも利用しやすい選択肢の一つです。
2. 掛け金の金額を決める
自分の職業や年金の状況によって上限が決まります。いきなり上限まで拠出する必要はなく、最低額の月5,000円から始めることも可能です。
無理のない金額からスタートして、収入が増えたタイミングで増額するのが現実的なやり方です。掛け金の変更は年に1回できます。
3. 運用商品を選ぶ
金融機関が提供する商品の中から、自分が積み立てる先を選びます。初心者におすすめされることが多いのは、世界中の株式に分散投資できる「全世界株式インデックスファンド」や「バランスファンド」です。
リスクが怖いという人は、定期預金などの元本確保型を一部に組み込む方法もあります。ただし、あまりリスクを下げすぎると、30年後の資産がほとんど増えない可能性もあります。長期投資では、ある程度のリスクを受け入れることが重要です。
こんな人にiDeCoは特に向いている
iDeCoがとりわけ効果的なのは、以下のような人です。
- 所得税・住民税を払っている会社員や自営業者
- 老後資金を意識的に確保しておきたい人
- 「積み立てたお金に手をつけてしまいそう」という自制心が不安な人
- 節税しながら資産形成をしたい人
逆に、専業主婦(夫)など所得がない人は、掛け金の所得控除メリットを受けにくいため、NISAとの比較をより慎重に考える必要があります。また、収入が不安定で突然お金が必要になるリスクがある人も、60歳まで引き出せないiDeCoは慎重に判断してください。
始めるなら早いほうがいい理由
iDeCoは長期積み立てであるほど、その威力が増す制度です。30歳から始めた人と40歳から始めた人では、同じ月2万円の積み立てでも、60歳時点での資産額に大きな差が出ます。
仮に年率3%で運用できた場合、30歳スタートだと30年間で約1,166万円、40歳スタートだと20年間で約655万円。その差は約511万円にもなります。
もちろん運用成果は保証されませんが、「時間を味方につける」という原則は投資の世界では普遍的な考え方です。「もう少し余裕ができたら始めよう」と思い続けて、10年後に後悔する人を何人も見てきました。
老後のお金の準備は、早く始めれば始めるほど、毎月の負担が少なくて済みます。節税しながら、時間をかけてじっくり育てる。それがiDeCoの本質的な使い方です。
まずは自分の職業と年収を確認して、いくら掛け金を拠出できるか・節税効果がいくらになるかを計算してみるところから始めてみてください。多くの金融機関が無料のシミュレーターを提供しているので、気軽に試せます。
Photo by Jessica Lewis 🦋 thepaintedsquare on Unsplash