「また残してる…」と思いながら、こっそりため息をついた夜、ありませんか?
野菜を見ただけで「いらない」と首を振る子、口に入れた瞬間に顔をゆがめる子、せっかく作ったのにほとんど手をつけないまま席を立とうとする子。我が家の長男もそうでした。ピーマン・トマト・きのこ・魚全般と、食べられないものをリストアップしたほうが早いくらいで、当時は正直「この子、大きくなったらどうなるんだろう」と不安でいっぱいでした。
でも、今は家族みんなで同じものを食べています。好き嫌いが完全になくなったわけではないけれど、「少し食べてみる」ができるようになりました。その変化に至るまでの道のりで気づいたことを、できるだけ具体的にお伝えしたいと思います。
子どもの好き嫌いは「わがまま」じゃない
まず最初に、これだけは声を大にして言わせてください。子どもが食べ物を嫌がるのは、意地悪をしているわけでも、親を困らせたいわけでもありません。嫌いなものを口に入れることが、子どもにとっては本当に勇気のいる行動なんです。
味覚の感受性が大人とは全然違う
子どもの味蕾(みらい)の数は大人の約3倍ともいわれています。舌の感覚が鋭すぎるくらい鋭いので、大人が「ちょっと苦いな」と感じるものを、子どもは「猛烈に苦い!」と感じていることがあります。特にピーマンやゴーヤ、ブロッコリーなど苦み成分のある野菜を嫌がるのは、本能的な防衛反応とも言われていて、毒のある植物に含まれる苦みを避けようとする仕組みが体に備わっているからだそうです。
大人になるにつれて味覚が変わり、苦みをうまみとして感じられるようになっていく。つまり、今食べられなくても、それは成長の過程で自然と変わっていくことが多いのです。「今だけ」だと思えると、少し気が楽になりますよね。
初めて見る食べ物への警戒心(新奇恐怖)
「食べてみたら好きかもしれないのに、なぜ口もつけないの!」と思ったことはありませんか?これは「新奇恐怖(ネオフォビア)」と呼ばれる現象で、見たことのない食べ物・食べたことのない食べ物を本能的に避けようとする心理です。2〜6歳ごろに特に強く出やすく、個人差もあります。
大事なのは、「食べない=嫌い」ではないということ。まだ「怖い」の段階かもしれません。見慣れてきたら、においを嗅いでみる、触ってみる、という段階を経て、やっと口に入れるところまでいけます。焦らずに「存在に慣れさせる」ことがファーストステップです。
食べ物の記憶は感情とセットで残る
子どもは「どんな気持ちのときに食べたか」を強く記憶します。「無理やり口に押し込まれた」「泣きながら食べた」「先生に怒られた」という経験があると、その食べ物自体への拒否反応が強まってしまいます。逆に、「楽しく食べた」「褒められた」「自分で作った」という体験は、苦手だった食材をいつの間にか食べられるようにしてくれます。食育において「食卓の雰囲気」がこれほど大事な理由はここにあります。
毎日の食卓でできる、無理のない働きかけ
特別なことをしなくても、日々の食卓のちょっとした工夫で、子どもの「食べてみようかな」という気持ちを育てることができます。
「一口だけ食べたら終わり」のルールは逆効果なことも
「一口食べたらいいよ」というアプローチは一見やさしそうですが、子どもによっては「食べないといけないプレッシャー」として受け取ってしまうことがあります。特に敏感な子は、その一口を頭の中でものすごく大きな試練に感じていたりします。
私が実感したのは、「食べなくてもいいから、お皿に乗せておくだけ」という方法です。今日は食べなくていい、でも料理の一部として食卓に存在させる。それだけで「見慣れる」が少しずつ進みます。何週間も続けているうちに、ある日突然「ちょっと食べてみる」と言い出すことがあるんです。あれは本当に感動しました。
見た目・形・調理法を変えてみる
「ピーマンが嫌い」というとき、実はピーマンそのものが嫌いなのではなく、苦みが嫌い・食感が嫌い・においが嫌い、という場合がほとんどです。同じ食材でも、調理法を変えると別物のように感じられることがあります。
例えば、ピーマンをみじん切りにしてミートソースに混ぜ込む。細かくすると苦みが分散して感じにくくなります。トマトが嫌いな子がトマトソースのパスタは食べられる、というケースもよくあります。食感が苦手な子には、柔らかく煮てみる。においが苦手な子には、ごまやチーズなど香りの強いものと組み合わせる。「食べさせる」のではなく「食べやすくする」発想の転換が大切です。
形への抵抗感がある子には、キャラクター型の型抜きを使ったり、お弁当のように小さくかわいく盛り付けてみるのも効果的です。「なにこれ!かわいい!」という気持ちから、食べる意欲につながることがあります。
家族みんなで同じものを食べる
子どもが嫌いなものを別に作って出す、というやり方をしていた時期もありました。でも、それをやめたことが大きな転機になりました。家族全員が同じものを食べていると、子どもは「これはみんなが食べるものなんだ」という感覚を自然と持ちます。パパやママが「これおいしいね」と言いながら食べている様子を見るだけで、子どもの中に「食べてみようかな」という気持ちの種がまかれていくんです。
完食できなくても叱らない、少しでも食べたら「食べてみたんだね、えらい」と認める。食卓が「戦場」ではなく「安心できる場所」であることが、長い目で見て一番の食育になると私は思っています。
食育は台所から始まる
「食べる」体験だけが食育ではありません。食材に触れる、料理に関わる、育てる、という体験が「食べてみようかな」という気持ちを引き出すことがよくあります。
一緒に料理することの力
自分で作ったものは食べられる——これ、本当によく聞きますよね。実際に我が家でも経験しています。ピーマンが大嫌いだった息子が、チンジャオロースを一緒に作ったとき、「自分が切った」というだけで普通に食べたんです。あれは驚きました。
台所での作業は、年齢に合わせて少しずつ増やしていけます。4〜5歳なら野菜を洗う、ちぎる、混ぜるなど。6〜8歳になれば、ピーラーで皮をむく、計量する、盛り付けをする。9歳以上なら包丁を使った簡単な切り作業も始められます。「手伝ってくれてありがとう、おいしくなったよ」という言葉が、子どもの食への関心をぐっと育ててくれます。
食材の「旅」を一緒に追いかける
スーパーで買ってきたものがどこから来ているのか、どうやって育つのかを知ることで、食べ物への親しみが増します。休日に農家の直売所に行ったり、地域の農業体験に参加したりするのもいい機会です。土のついたにんじんを見て「形が変!」と笑う体験、自分で収穫したトマトをそのまま食べる体験、そういった感覚の記憶が「食べることが楽しい」という土台をつくっていきます。
ベランダやプランターで、ミニトマトやハーブを育てるのも手軽にできておすすめです。水やりをして、少しずつ育っていく様子を観察して、収穫して食べる。この一連の体験は、食への好奇心を本当によく育ててくれます。
食材の名前や産地に興味を持たせる
「今日のほうれん草はどこから来てるんだろうね」と一緒にパッケージを見てみたり、「このお魚の名前なんだろう」と調べてみたりする習慣も、地味ですが効いてきます。食材に「名前のある存在」として接することで、子どもの中で食べ物が身近に感じられるようになります。特に学齢期(6歳以上)の子には、調べる楽しさと組み合わせることで関心が広がりやすいです。
「食べてほしい」気持ちが空回りするとき
頑張っているのに全然変わらない、むしろ食卓がいやな雰囲気になってきた…そういう時期は必ずあります。私も何度もありました。そんなときに立ち返りたいことをお伝えします。
食べることを強制しない、でも諦めない
「嫌いなものを無理やり食べさせる」と「好きなものだけ食べさせる」は、どちらも長期的には子どもの食の幅を広げません。大切なのはその中間、つまり「強要はしないけど、出し続ける」姿勢です。
毎回食卓に登場させて、食べなくても怒らない。「今日は食べなかったね、明日またあるよ」くらいの気持ちで続けていると、ある日ふと食べることがあります。これは本当に時間がかかります。数週間ではなく、数ヶ月・数年という単位で変化していくものです。でも「出し続けた」大人の粘り強さが、必ずどこかで実ります。
親自身の「おいしいを伝える」が一番の食育
子どもは親の言葉よりも、親の「態度」をよく見ています。食べ物の悪口を言わない(「これ苦手なんだよね」という親の言葉が、子どもに「食べなくていいもの」という情報を与えてしまうことがあります)、食事中にスマホを置いて食べることに集中する、「今日のごはんおいしいね」と声に出して味わう。親が食事を楽しんでいる姿そのものが、子どもに「食べることは楽しいこと」を伝える一番の教材です。
「食べられた」をちゃんと喜ぶ
少し食べられたとき、「食べたじゃん!すごい!」と大げさなくらい喜んでいいと思います。子どもは「自分が頑張ったことを見てもらえた」という体験を積み重ねることで、「また挑戦してみよう」という気持ちになります。食べることへの自己効力感、つまり「自分はできる」という感覚を育てることが、好き嫌い克服の根っこにあります。
反対に、食べられなかったときに責めたり、がっかりした顔を見せたりすると、「また失敗した」という気持ちが積み上がって、挑戦する気力がしぼんでいきます。小さな成功をたくさん作ってあげることが、長い道のりを歩む上でとても大切です。
食育で本当に育てたいのは「食べる力」より「食を楽しむ心」
好き嫌いをなくすことは確かに大事ですが、それ以上に大切なのは、食事の時間を「好きな時間」にしてあげることではないかと思っています。
食卓は「安心できる場所」であってほしい
食べることを叱られる場所、食べ残すと怒られる場所、という記憶は、子どもが大きくなっても残ります。逆に、笑いながら食べた記憶、おいしいねと言い合った記憶は、食べることへのポジティブな感情として長く残ります。食育の目標を「嫌いなものをなくす」から「食事が好きな子に育てる」に少し広げてみると、毎日の食卓が少しラクになるかもしれません。
失敗しながら積み上げていくものだから
工夫して出したのに全部残された、せっかく一緒に作ったのに食べなかった、そういう日は必ずあります。私も何度もそういう日がありました。でも、そういう積み重ねの先に、ある日「これ食べれるようになったんだね」という瞬間がやってきます。
子どもの食の変化は、ゆっくりで当たり前です。焦らなくていいです。少し休んでもいいです。「ご飯を食べてくれない」という悩みは、子どものことをちゃんと考えているから生まれる悩みで、それだけで十分素敵な親だと思います。
今日の食卓が少しでも笑顔になりますように、と願いながら、私も明日また台所に立ちます。
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