カフェでカップを受け取ったとき、表面にふわりと描かれたハートやリーフを見て、思わず「かわいい」と感じた経験はありませんか。あの美しいラテアートの正体は、実はエスプレッソとミルクフォームのシンプルな組み合わせです。

「自分でやってみたいけれど、難しそう」「スチームワンドがないとできないんじゃないか」と思っている方も多いと思います。でも、実はミルクフォームの基本さえ押さえれば、道具をそろえすぎなくても自宅でラテアートを楽しむ第一歩を踏み出せます。

この記事では、ミルクフォームがうまく作れない理由から、フォームの作り方の基本、そしてラテアートの入門として挑戦しやすいデザインまで、ひとつひとつ丁寧にお伝えします。

ラテアートはミルクフォームで決まる

ラテアートの美しさを左右するのは、絵心でも器用さでもありません。ミルクフォームの質です。これは、バリスタの世界では「当たり前」のことですが、家で試したことのある方にはきっと身に染みる言葉だと思います。

フォームが粗くて大きな泡だらけになってしまうと、カップに注いでも絵を描くどころか、ただ白い塊が浮いて終わりです。逆に、きめ細かくなめらかなフォームができれば、初心者でもハートの形くらいは自然と生まれることがあります。

つまり、ラテアートの練習より先に、良いミルクフォームを作る練習をすることが近道なのです。

良いミルクフォームとはどんな状態か

「良いフォーム」という言葉だけでは少しわかりにくいかもしれませんが、プロのバリスタが目指すミルクフォームは「マイクロフォーム」と呼ばれるものです。これは、目には見えないくらい微細な気泡がミルク全体に均一に混ざり込んだ状態を指します。

見た目はツヤがあり、とろりとした光沢感があります。スプーンで救うとゆっくりと広がるような、ペイントの「艶消し塗料」に近い感触とでも言いましょうか。表面に大きな泡がブツブツと見えるものは、まだフォームが粗い証拠です。

また、温度も重要です。ミルクは60〜65度くらいが理想とされています。それ以上に熱してしまうと、ミルクのたんぱく質が変性してフォームがうまく作れなくなるうえ、甘みも損なわれてしまいます。温度計を使うのが確実ですが、ピッチャーをさわって「熱くて持っていられない」と感じる手前くらいが目安になります。

道具はどれを選べばいいか

スチームワンドがある場合

エスプレッソマシンにスチームワンドが付いている方は、まずそれを使いましょう。スチームワンドは蒸気の圧力でミルクを加熱しながら空気を含ませることができる、ラテアートには最も適した道具です。

ポイントはノズルの位置です。ノズルをミルクの表面すれすれ、液面から1センチ以内の浅い位置に当てると、空気を適度に取り込みながらミルクが対流します。深く沈めすぎると空気が入らず、浅すぎると大きな泡ができてしまいます。この「ちょうどいい深さ」を体で覚えるのが、スチームワンドの練習の核心です。

最初は「シュー」という音が聞こえることがありますが、これは空気が入っている音です。少し入れたら、ノズルをやや深めに差し込み、ミルクをぐるぐると回転させるようにして温めながらフォームをなじませていきます。

スチームワンドがない場合

スチームワンドが使えない環境でも、代替の道具でミルクフォームを作ることは可能です。代表的なものをいくつかご紹介します。

電動ミルクフォーマー(ハンディタイプ)は、1000〜2000円程度で手に入る小型の泡立て器です。温めたミルクに差し込んでスイッチを入れるだけで、泡立てができます。マイクロフォームと呼べるほど細かい泡にはなりにくいですが、練習用としては十分です。ラテアートの入門段階にはこれで十分試せます。

フレンチプレス(コーヒー用)も意外に使えます。温めたミルクをフレンチプレスに入れて、プランジャーを上下に素早く動かすと、空気を含んだフォームが作れます。泡の粗さはありますが、コスパの良い方法として試してみる価値があります。

専用のミルクフォーマーピッチャー(手動ポンプ式)は、ガラスやステンレスのポットにメッシュポンプが付いたもので、温めたミルクを入れてポンプを押し引きすることでフォームを作ります。スチームワンドに近い感覚で練習でき、電源も不要です。

どの道具を選んでも、ミルクを温めてからフォームを作るという順番は変わりません。冷たいまま泡立てようとすると、温度が足りず味も落ちてしまいます。

ミルクフォームをうまく作るためのステップ

ステップ1:ミルクの選び方

ミルクフォームを作るなら、まず成分無調整の牛乳を選んでください。低脂肪乳や豆乳でもフォームはできますが、たんぱく質と脂肪分のバランスが良い成分無調整のものが、最もきめ細かくなめらかなフォームに仕上がります。

温度については、冷たいものを使いましょう。温まりきったミルクより、冷蔵庫から出したての冷たいミルクのほうが、空気を取り込む時間が長く取れて、フォームが作りやすくなります。これはスチームワンドでも手動フォーマーでも共通です。

ステップ2:量を適切にする

ピッチャーや容器にミルクを入れる量は、容量の3分の1〜2分の1程度が目安です。フォームになると体積が増えるので、最初から入れすぎると溢れてしまいます。少なすぎても泡立てにくいので、このくらいの量を心がけてください。

ステップ3:泡立て後の「仕上げ」を大切に

フォームを作り終えたら、すぐに注ごうとしないでください。ピッチャーをカウンターにトントンと軽くたたきつけて、大きな泡を潰す動作をしましょう。そのあとピッチャーを軽く回転させるようにスワールすると、フォームとミルクがよくなじんで、なめらかな状態になります。

この「たたく→まわす」の仕上げ動作は、バリスタが必ずやっている工程です。見た目だけでなく、注いだときの流れ方にも大きく影響します。

いよいよラテアートに挑戦する

まずはハートから始めよう

ラテアートの入門として、最初に挑戦するなら「ハート」がおすすめです。プロのバリスタも最初に覚えるのがハートですし、構造がシンプルなので「どうやって形ができているか」を理解しやすいです。

基本の動きはこうです。エスプレッソをカップに用意したら、ピッチャーを高い位置からゆっくりとミルクを注ぎ始めます。カップの液面が半分くらいになったら、ピッチャーをカップの端に寄せて低く構え直します。ここからが本番です。

低い位置からミルクを注ぐと、白いフォームが表面に浮かびやすくなります。白い円が広がってきたら、最後に手首を軽く手前に引きながらカットするように動かします。この「引き」の動作が、ハートの先端部分を作るポイントです。

最初はきれいな形にならなくて当然です。それよりも「フォームが浮いてきた」という感覚を体験することが大切な一歩です。

次はロゼッタ(リーフ)に挑戦

ハートがある程度できるようになったら、ロゼッタと呼ばれる葉っぱの形に挑戦してみましょう。カフェラテでよく見かける、左右対称の葉脈のようなデザインです。

ロゼッタは、ミルクを注ぎながらピッチャーを左右に細かく振る動作が必要です。振り幅は小さく、リズムよく。そして最後にハートと同じように手前に引きます。左右のゆれが規則的だと、きれいな葉脈の模様が生まれます。

最初は振り方がぎこちなくなりがちですが、練習を重ねることでリズムが体に染みついてきます。ミルクが余ったときにカップに注いで試してみるだけでも、感覚が少しずつ磨かれていきます。

エッチングという方法もある

「フリーポア」(注ぎで形を作る方法)が難しいと感じる方には、「エッチング」という手法もあります。フォームの上に竹串やラテアートペンを使って、絵を描く方法です。

たとえば、ミルクフォームを表面全体に注いだあと、竹串でハートやネコの顔をなぞって描くことができます。フリーポアのような注ぎの技術が不要なので、まずラテアートの雰囲気を楽しみたい方にはこちらのほうが気軽に始められます。

シナモンパウダーやカカオパウダーをステンシルシートで振りかければ、模様を作ることもできます。道具も少なく、アイデア次第でさまざまなデザインが楽しめるのがエッチングの魅力です。

うまくできないときに確認したいこと

ラテアートを試してみたけれど、なかなかうまくいかないという方は、次のポイントを見直してみてください。

まず、フォームに大きな泡が残っていないかを確認しましょう。注いだときに白いポツポツが散らばっているなら、フォームの質が粗い状態です。仕上げの「たたく→まわす」工程を増やして、気泡をなじませてみてください。

次に、注ぎ始めのタイミングです。最初から低い位置でピッチャーを構えてしまうと、すぐにフォームが表面に出てきてしまい、絵を描くスペースが足りなくなります。前半は高い位置から細く注いで、カップの液面が半分を超えたあたりから低く構えるのが基本の流れです。

また、カップの傾きも忘れずに。ミルクを注ぐとき、カップを手前に少し傾けると液面が近くなり、ピッチャーとの距離が縮まってフォームを浮かせやすくなります。カップを水平のまま置いた状態で注ぐのと、傾けた状態で注ぐのとでは、仕上がりがかなり変わります。

コーヒー自体も大切な要素

ミルクフォームの作り方に注目しがちですが、ラテアートをきれいに仕上げるには、ベースになるエスプレッソやコーヒーの濃さも重要です。

エスプレッソマシンがある場合は、クレマ(エスプレッソの表面の茶色い泡)がしっかり出ているものを使いましょう。クレマがミルクフォームと混ざり合うことで、コントラストが生まれてラテアートが映えます。

エスプレッソマシンがない場合は、モカポットや濃いめに淹れたドリップコーヒーで代用できます。ただし、ドリップコーヒーは薄いとミルクの白さとのコントラストが出にくいので、豆の量を多めにして濃く淹れることをおすすめします。

少しずつ、楽しみながら続けることが一番の近道

ラテアートはすぐに上手くなるものではありません。カフェのバリスタも、毎日何百杯も練習して今の技術を身につけています。最初は形にならなくて当然ですし、むしろ最初の「フォームがちゃんと浮いた」という瞬間が、次への意欲につながります。

まずはミルクフォームをきれいに作ることだけに集中してみてください。フォームの質が上がれば、ラテアートの形は自然と生まれやすくなります。

自宅で作ったコーヒーにひとつのハートが描けただけで、朝のコーヒーがずっと特別な時間になるはずです。ぜひ気軽に、自分のペースで楽しんでみてください。

Photo by Ian Harber on Unsplash