朝の忙しい時間、豆を挽いてお湯を沸かして…という工程が正直しんどいと感じることはありませんか。あるいは、せっかくコーヒーにこだわりたいのに、毎回味がブレてしまうことに悩んでいる方もいるかもしれません。そんなときに頼りになるのが、カプセルコーヒーです。
「カプセルコーヒーって手軽なだけで、味はそこそこでしょ?」と思っている方、少し待ってください。実は近年のカプセルコーヒーは品質が格段に上がっており、バリスタとして正直に言えば、日常使いとしては十分すぎるクオリティのものが多くあります。ただし、その選び方と使い方を知らないと、せっかくの良い製品も台無しになってしまうことがあります。
ここでは、カプセルコーヒーをより美味しく楽しむための考え方を、バリスタ目線でじっくりお伝えしていきます。
カプセルコーヒーが「ただの手抜き」ではない理由
まず、カプセルコーヒーの仕組みを少し理解しておきましょう。カプセルの中には、すでに挽かれたコーヒー粉がきっちり密封されています。酸素・光・湿気から完全に守られた状態で保存されているため、開封するまで鮮度が保たれます。これは一般的な粉コーヒーよりも劣化しにくい、という点で実はかなり優れた仕組みです。
豆を挽きたてで飲むのが最もコーヒーの風味を引き出せるのは間違いありませんが、買ってきた粉をずっと袋のまま保存しているなら、カプセルの方が鮮度面では有利なケースも十分あります。専門的な品質管理のもとで充填・密封されているので、毎回同じ条件で抽出できるという安定性も魅力のひとつです。
つまり、カプセルコーヒーとは「手軽さ」と「品質の安定」を両立した、理にかなった方法と言えるのです。
まず知っておきたい、カプセルコーヒーの種類
カプセルコーヒーを選ぶ前に、まず大きな分類を把握しておきましょう。カプセルコーヒーは、専用マシンが必要なものがほとんどで、マシンとカプセルの規格(システム)が合わないと使えません。そのため、「カプセルを選ぶ」前に「マシンのシステムを選ぶ」という順番になります。
代表的なシステムとその特徴
市場にはいくつかの主要なカプセルシステムがあります。それぞれ異なる個性を持っているので、自分のライフスタイルや好みに合ったものを選ぶことが大切です。
エスプレッソ系のシステムは、圧力をかけてコーヒーを抽出するタイプです。濃厚でコクのある一杯が楽しめ、カフェラテやカプチーノのベースとしても使えます。イタリアンエスプレッソの風味に近いものが多く、しっかりとしたコーヒーの香りと苦みを求める方に向いています。ミルクフォーマーと組み合わせると、自宅でカフェの雰囲気がより楽しめます。
ドリップ系のシステムは、お湯を通してコーヒーを抽出するタイプで、比較的あっさりとした飲み口が特徴です。アメリカンスタイルのコーヒーに慣れている方や、ブラックで大きめのカップでゆっくり飲みたい方にはこちらが合いやすいでしょう。
どちらが優れているというわけではなく、「自分がどんなコーヒーを日常的に飲みたいか」で判断してください。濃いめでミルクと合わせたいならエスプレッソ系、すっきりとブラックで楽しみたいならドリップ系、という目安で考えると選びやすくなります。
カプセルの選び方、3つの軸で考える
マシンのシステムが決まったら、次はいよいよカプセル選びです。同じシステムのなかでも、カプセルの種類は非常に豊富で、最初はどれを選べばいいか迷うかもしれません。そこで、以下の3つの軸を基準に選んでみてください。
① 強度(インテンシティ)で選ぶ
多くのカプセルコーヒーには、パッケージに「強度」や「インテンシティ」という数値が記載されています。一般的に1〜10や1〜12のスケールで表されており、数字が大きいほど濃くて苦みが強い傾向にあります。
コーヒーを飲みはじめたばかりの方や、ミルクと合わせて飲む方には強度が高めのもの(7〜10程度)が向いています。ミルクに負けない濃さがあるので、カフェラテやカプチーノにしたときに風味がしっかり感じられます。一方、ブラックでゆったり飲む方や、酸味やフルーティーさを楽しみたい方は低め(3〜6程度)を選ぶと、繊細な風味が際立ちます。
最初はどこから試せばいいかわからないという方には、まず中間あたりの強度(5〜7)を選んでみることをおすすめします。コーヒーの風味がバランスよく楽しめるので、基準点として把握しやすいですよ。
② 産地・フレーバーの傾向で選ぶ
カプセルコーヒーのパッケージには「エチオピア」「コロンビア」「ブラジル」など産地が記載されているものや、「フルーティー」「チョコレートのような」「ナッツ系」などフレーバーの特徴が書かれているものもあります。
産地によるコーヒーの個性は、豆の種類と同様に次のように理解しておくと便利です。エチオピアはフルーティーで酸味が特徴的、コロンビアはバランスが良くマイルドな甘さ、ブラジルはチョコレートやナッツのような風味でどっしりとしたボディ感があります。こういった傾向は産地共通のものですから、カプセルコーヒーでも概ね同様の個性が反映されています。
まずは「酸味が好きか、苦みが好きか」から考えると選びやすくなります。酸味が好きならエチオピアや中南米系の明るいフレーバー、苦みやコクが好きならブラジルやロブスタブレンドを試してみてください。
③ ブレンドかシングルオリジンか
カプセルコーヒーには、複数の産地の豆を合わせた「ブレンド」と、特定の産地や農園の豆だけを使った「シングルオリジン」があります。
ブレンドは複数の豆の良いところを組み合わせているため、バランスが取れていて安定した飲みやすさがあります。毎日飲む定番として使うには、ブレンドが使いやすいことが多いです。一方のシングルオリジンは、その産地ならではの個性が際立っていて、飲み比べをする楽しさがあります。コーヒーの産地の違いを感じてみたい方にはぜひ試してほしい選択肢です。
美味しく淹れるために、ちょっとした工夫を加える
カプセルコーヒーは基本的に「セットして、ボタンを押すだけ」ですが、それだけでは引き出せる美味しさに限界があります。バリスタとして実際に試してきた工夫を、いくつかお伝えします。
カップを必ず温めておく
これはカプセルコーヒーに限らず、すべてのコーヒーに共通する大切なポイントです。冷たいカップにコーヒーを注ぐと、抽出直後から温度が急激に下がり、香りが飛んでしまいます。カプセルコーヒーを淹れる前に、マシンで少量のお湯を流してカップを温めておくか、別途お湯を注いで温めてから捨てる、という手順を加えるだけで、香りの立ち方が明らかに変わります。
特に寒い季節は、カップが思った以上に冷えていることがあるので、ひと手間ではありますがぜひ習慣にしてほしいです。
抽出量を少し調整してみる
多くのカプセルマシンは、抽出量をある程度調整できます。同じカプセルでも、少量で抽出すれば濃くてエスプレッソらしい一杯に、多めに抽出すればよりマイルドなアメリカーノ風になります。
「このカプセル、ちょっと薄いな」と感じたら抽出量を減らす、「苦みが強すぎる」と感じたら少し多めにお湯を通すように調整するだけで、味の印象がかなり変わります。同じカプセルでも、抽出量次第でまったく異なる飲み物に仕上がりますので、いくつか試してみると自分好みの設定が見えてきますよ。
マシンの定期的なメンテナンスを忘れずに
カプセルコーヒーのマシンは、使い続けるとコーヒーの油分や水垢が内部に蓄積します。これが積み重なると、抽出されるコーヒーに雑味が混じったり、香りが損なわれたりする原因になります。せっかく良いカプセルを選んでいても、マシンが汚れていては台無しです。
多くのマシンには専用のクリーニングカプセルや、水通し(フラッシング)機能が備わっています。週に一度程度、マシンの内部をお湯で流すだけでも、清潔さはかなり保てます。使用説明書に記載されているメンテナンスの手順を、最初にしっかり確認しておくことをおすすめします。
カプセルコーヒーをもっと楽しむアレンジのヒント
カプセルコーヒーは、そのまま飲むだけでなく、少し手を加えることでカフェのドリンクに近い楽しみ方ができます。日常に取り入れやすいアレンジをいくつかご紹介します。
ミルクと合わせてカフェラテ風に
エスプレッソ系のカプセルで濃いめに抽出し、温めたミルクと合わせればカフェラテの完成です。ミルクは電子レンジで温めてからハンドフォーマーで泡立てると、きめ細かい泡ができてよりカフェらしい仕上がりになります。ハンドフォーマーは千円程度から手に入るので、カフェラテを日常的に楽しみたい方はぜひ一本持っておいてください。
牛乳の代わりにオーツミルクやアーモンドミルクを使うと、また違った風味が楽しめます。オーツミルクは甘みが柔らかく、コーヒーとの相性が非常に良いので、試したことのない方はぜひ一度使ってみてほしいです。
アイスでもしっかり美味しく
カプセルコーヒーをアイスで楽しむ場合は、氷を入れたグラスに直接抽出するのが手軽です。ただし、薄まりすぎを防ぐために、抽出量は通常より少なめにしておくのがポイントです。濃いめに抽出したものが氷で冷やされることで、香りが閉じ込められ、すっきりとしたアイスコーヒーになります。
また、コーヒー氷(コーヒーを氷にして冷凍したもの)を使うと、溶けても味が薄まらないので、ゆっくり飲みたい方にはおすすめの方法です。少し面倒に感じるかもしれませんが、作り置きしておけばいつでも使えるので意外と便利です。
デザートへの活用
カプセルコーヒーで抽出した濃いめのコーヒーは、スイーツにも使えます。バニラアイスクリームに少量かけるアフォガートは、簡単でありながら本格的なデザートになります。また、プリンやパンナコッタを作る際にコーヒーを加えると、コーヒー風味のスイーツが手軽にできます。カプセルコーヒーは一杯ずつ新鮮な状態で抽出できるので、料理やお菓子作りへの活用にも向いています。
コスト面から考える、賢い使い方
カプセルコーヒーのコストは、1杯あたりで計算すると豆から挽いて淹れるコーヒーよりもやや割高になることが多いです。ただし、マシンの電気代、豆の保存中の鮮度劣化によるロス、器具の洗い物にかかる手間・時間なども考慮すると、総合的にはそれほど大きな差ではないと感じることもあります。
より賢く使うなら、日常の一杯はカプセルコーヒー、週末や気分転換にはハンドドリップ、というように使い分けるのがおすすめです。カプセルコーヒーは「毎日安定して美味しい一杯を確保するためのもの」として活用し、コーヒーをじっくり楽しむ時間は豆から丁寧に淹れる、という両立ができると、コーヒーの楽しみ方がさらに広がります。
また、公式サブスクリプションやまとめ買いを利用すると、1杯あたりのコストを抑えやすくなります。定期的に同じカプセルを使う方は、まとめ買いや定期購入の仕組みを上手に活用してみてください。
カプセルコーヒーは「入口」にもなる
カプセルコーヒーを使っていると、「この産地のコーヒー、すごく好きだな」「このフレーバーの豆を自分で淹れてみたい」という気持ちが生まれてくることがあります。カプセルコーヒーは、コーヒーの産地やフレーバーの世界への入口としても機能します。
実際に、カプセルコーヒーで好みの産地に気づいてから豆の世界に踏み込んだ、というコーヒー好きの方は少なくありません。手軽に始められるカプセルコーヒーだからこそ、いろいろな種類を試しやすく、自分の好みを発見しやすいという良さがあります。
コーヒーは「正解」を目指すものではなく、自分が美味しいと感じる一杯を見つける旅のようなものだと私は思っています。カプセルコーヒーはその旅をとても身近にしてくれるツールです。毎日の一杯が、少しずつ自分の好みを教えてくれる。そんな感覚で楽しんでいただけると嬉しいです。
どのカプセルを選べばいいか迷ったときは、まず一番興味を持ったものを手に取ってみてください。気に入ったらリピートして、物足りなければ次は別のものを試す。それだけのことで、少しずつ自分にとっての「美味しい」が見えてきますよ。
Photo by Noora AlHammadi on Unsplash